著者のコラム一覧
佐々木寛

1966年生まれ。専門は、平和研究、現代政治理論。著書(共著)に「市民社会論」「『3・11』後の平和学」「地方自治体の安全保障」など多数。現在、約900キロワットの市民発電所を運営する「おらってにいがた市民エネルギー協議会」代表理事、参院選新潟選挙区で野党統一候補を勝利に導いた「市民連合@新潟」の共同代表。

歴史的な反省力こそ人間の希望

公開日: 更新日:

「第三のチンパンジー」ジャレド・ダイアモンド著(草思社 1800円+税)

 先日、久しぶりにスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」を見た。今から半世紀近く前の作品であるにもかかわらず、今見ても鮮烈な印象を与える傑作である。まだ言葉すらもたないサルが空中に投げる一本の骨が、一瞬で、真空に浮かぶ宇宙船に変わるシーンは有名である。キューブリックの作品はいつも、「人間とは何か」を問うている。しかも、常にどこまでも冷徹なまなざしで。

 本書もまた、「人間とは何か」を問う。そしてキューブリック同様、はじめから人間に特権を与えたりはしない。

 もちろん人間は、言語や道具を操り、農業や芸術を生み出した。しかし、しょせん人間は「第三のチンパンジー」にすぎず、他の動物と共に生物的進化の長い旅路を歩む生命の一部であった。ただ、人間は特別な動物でもある。しかも、それほどは誇るべくもない意味において。

 まず、「自らの種やほかの種を絶滅に追いやる能力」を持つようになった。「ジェノサイド」は歴史上、人間の習性であった。また、必ずしも生殖とは結びつかない「風変わりな性行動」を示し、体に悪い薬物を乱用し続けてきた。本書は、これら「不都合な真実」がなぜ誕生したのかを、生理学、進化生物学、生物地理学、言語学、人類学等々、多くの学問分野を越境し、明らかにしようとする。本書の魅力は、その豊富な知識に基づく壮大なストーリー展開であるが、人間の解明という包括的な課題には、そもそもこのような横断的知性が不可欠である。

 さて、自らを滅ぼす可能性がある私たち人間は、今後どうすればいいのだろうか。まず、自分たちがつくり上げてきた「文明」そのものを、再度冷徹に見つめ直すことから始めなければならない。本書は、このように、「過去を理解し、将来の手引とする」ために書かれた。つまり、人間の希望は、いわばこの歴史的な反省能力にある。

【連載】希望の政治学読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭