「東京クルージング」伊集院静著
伊地知先生と呼ばれるベテラン作家の「私」は、松井秀喜の活躍を追うドキュメンタリー番組の企画で、三坂剛という青年に出会う。
そこで、番組づくりに真摯に取り組む彼の人柄を知り意気投合したが、好青年である彼が、ずっと独り身でいることが気になっていた。
そんな「私」の気持ちを察したのか、三坂は、結婚を約束した女性が、ある日突然失踪してしまったという、つらい過去を打ち明ける。
彼女を忘れられないと訴える彼に、「私」は残酷かもしれないと思いながらも、彼女のことを忘れて再出発することを勧めるのだが……。
昨年、紫綬褒章を受章した人気作家による、出会いと別れの奇跡を描いた長編小説。
2015年2月~16年10月にかけて信濃毎日新聞などの地方紙に連載されていた当時から、切なすぎる設定が話題を呼んだ。
著者自身を彷彿させる「私」の視点から描かれた第1部と、三坂のもとから去らざるを得なかった女性の視点から描かれた第2部の2部構成になっている。(KADOKAWA 1600円+税)