「北海タイムス物語」増田俊也著
「北海タイムス」は北海道に実在した新聞である。歴史ある新聞であったが、1998年に休刊。本書はその新聞社を舞台にした小説だが、読み始めるとやめられなくなる。
とにかく労働環境が半端ないのだ。手取りで13万ちょっとという低賃金で、部次長になっても年収は200万円。だから、休みの日に工事現場に働きにいく。そうしないとやっていけないのだ。昼飯時になると、ビニール袋から米飯を取り出し、おにぎりを作り塩をつけて食べるシーンにも驚く。新聞社に勤める整理部の社員が、ただの米飯が甘いと感じるシーンで、これは本書の中の象徴的な場面といっていい。内職に出かける時間があるのはまだいいほうで、超過勤務のためにその内職もままならないのが実態。肉や刺し身を食べてみたいと嘆く場面も頻出するが、その過酷な労働の日々が、これでもかこれでもかと描かれていく。
そこで働く人間たちも超個性的な連中ばかりで、ぶつかっては酒を飲み、そのまま会社の隅で寝る。北大柔道部の青春を描いた自伝的小説「七帝柔道記」も熱い小説だったが、今回も前著に負けず劣らず熱い。
主人公は全国紙の採用試験にすべて落ち、何も知らずに北海道にやってきた野々村巡洋。取材記者志望だったのに整理部に回され、しかも先輩が厳しく、涙にくれる毎日だ。その青年がたくましくなっていく圧巻のラストまで一気読みの傑作である。(新潮社 1700円+税)