「水を石油に変える人」山本一生著
昭和14年1月、海軍省の庁舎では「水からガソリンをつくる」という製造法の実証実験が行われていた。製造法の発見者は、本多維富という初老の詐欺師。大正末期に帝大教授を巻き込んだ「わらから真綿」事件を起こしていたこともあり、実験反対の意見も強かったものの、山本五十六の強い要望のもと実施されたという。
本書は、防衛省防衛研究所の資料の中にあったマル秘扱いの文書「水ヲ主体トシ揮発油ヲ製造スルト称スル発明ノ実験ニ関スル顛末報告書」を契機に、太平洋戦争突入前夜の混乱期に暗躍した詐欺師の足跡をたどった近代史ノンフィクションだ。
第1次世界大戦後、石油の重要性に気付いた政府のもとに、富士山麓に油田発見などの怪しい情報とともに「水からガソリン」発明の報が寄せられる。真珠湾攻撃の立役者だった山本五十六と、特攻の生みの親である大西瀧治郎が、なぜ詐欺師の片棒を担がされることになったのか、そのお粗末な茶番劇が見えてくる。
(文藝春秋 1770円+税)