「カネと共に去りぬ」久坂部羊著
がん患者の真万(ママン)が多臓器不全で死んだ。主治医の村荘は医長に強制されて、霊安室から送りだされる真万の見送りに立ち会った。「お世話になりました」と言う真万の息子に何か言えと医長にせっつかれ、村荘は「……真万さんは、死んでよかったと思います」と言った。真万のがんは胃壁を突き破り膵臓の一部にも広がっていたが、臓器を広く切除すると手術で命を落としかねない。だが医長は手術を選んだ。そのまま延命治療を続けると黄疸になって悲惨な状況になると分かっていたが、医長はぎりぎりまで生かして現代医療の実力を試したかったのだ。(「医呆人」)
外務省の医務官だった著者が、名作のパロディーで現代医療の嘘と欺瞞を突いた短編7編。
(新潮社 1500円+税)