「還暦着物日記」群ようこ著
お正月に着物を着たら、飼っている猫が「あんた、どこかに出かけるんじゃ……」と疑いの目を向ける。「どこにも行かないから大丈夫」と言っても、半眼でじーっと監視している。猫をなでながら「ただ着物を着てるだけだよ」と説明すると、「ふん、それなら信じてやるか」といった態度で自分のベッドに入るが、ちょっと離れるとすぐ「にゃあーっ」と大声で呼ぶ。ロングワンピースを着ていると思わせる方法はないだろうか。着物の襟元にスカーフを巻いて隠してみたが、疑いの目つきは変わらない。
着物=おでかけ=お留守番の図式をもっているのは確かだが、どうやって着物を識別しているのかわからない。
着物を愛する著者の一年間の和装エッセー。 (文藝春秋 1450円+税)