「本と暮らせば」出久根達郎著
半世紀以上にわたって古書店を営んできた直木賞作家の著者がつづるエッセー集。
新規の本に目を通すのがおっくうに感じるとき、著者は「勝手知ったる」本を手に取り拾い読みをするうちにエンジンが温まり、はずみがついたところで読みたいと思っていた新しい本に乗り換えるという。そんな勝手知ったる本の一冊、沢村貞子著「私の浅草」は、さながら上質の人情世話物語であると、心に響いたエピソードを紹介する。
また「駅前の宿」と題した一文では、北海道から上京した折に途中下車した町で読書家の旅館の女主人との出会いを描いた中谷宇吉郎の戦前のエッセー「I駅の一夜」を取り上げるなど、本と作家にまつわる珠玉のエッセーが未知なる本への読書欲を刺激する。
(草思社 820円+税)