「祖国が棄てた人びと」金孝淳著 石坂浩一監訳/明石書店
「月刊日本」の12月号で日本共産党委員長の志位和夫と対談した亀井静香(元自民党政調会長)がこう言っている。
「国家間で法的に決着していることでも、日本としてはどうにかしなければならないという気持ちを持つことが大事です。解決済みだといって玄関払いすべきではない。徴用工問題は個々の企業の問題というよりも、当時の国家戦略の中で起きたことだから、そのことを無視するわけにはいかないんだよ」
その通りだろう。
「在日韓国人留学生スパイ事件の記録」が副題のこの本にも歴史の影が色濃く差している。
在日韓国人が「祖国」に留学して突如逮捕され、身の毛もよだつような拷問を受けて「北のスパイ」に仕立て上げられる。容易には信じ難い事実が記録されているが、韓国の国家保安法は日本の治安維持法そっくりに制定されたのである。
日本の植民地支配の時代に朝鮮人独立運動家を懸命に弁護し、戦後は社会党の議員となった古屋貞雄が韓国大統領の朴正煕にこんな公開書簡を送ったという。
「八・一五以前の日本国家は韓民族の最も優れた子たち、独立の意思を曲げない闘士たちを、その主張に深く耳を傾けずに国家という名で多数の人を殺してきました。それをわれわれは慚愧の気持ちで記憶に残しておいております」
「われわれはこのようなことが再び繰り返されないよう日本政府の対韓国政策および在日韓国人政策に繰り返し批判を加えてきました。しかし今あなた方があなたの子息と同世代の、韓民族の将来をまさに担わなければならない前途有為の青年たちを国家の名でいとも簡単に殺してしまおうとしております。この施政は過去の日本帝国主義の悪しき手法ととても似ています。このような生命軽視、民族の精華を独断的に抹殺することは誠実な民族統一を志向する民衆の心に本当に合うものとお考えですか」
圧政に抵抗する若者こそ民族の宝なのではないか。徐勝、徐俊植兄弟をはじめ、ここに登場した者たちが「韓民族の最も優れた子たち」なのである。翻って、いまの日本を考える時、沖縄の辺野古新基地建設に反対する人たちと「韓民族の最も優れた子たち」が重ならないだろうか。この人たちこそ国や民族の未来を考えているのである。
★★★(選者・佐高信)