「『さみしさ』の研究」ビートたけし著/小学館/760円+税
「アクティブシニア」なんて言葉もあり、昨今は「老い」が礼賛される傾向もある。と思えば、いわゆる「孤独を楽しむ」的な本も売れている。一方、本書の著者・ビートたけし氏は、「老い」は誰にも訪れるものであり、そこまで礼賛すべきものではないと説く。
前半は「老い」や「寂しさ」「定年」についてたけし氏の思想がつづられるが、週刊誌の連載をまとめたものだけに、その時々の話題となった事象をぶった切っていく。そのため、2018年や17年に発生した世のトレンドを振り返ることも可能だ。
「高齢化の波は芸能界にもやってきている。40過ぎた山口達也がアイドルを演じていたこと自体、『ブラック労働』だ」という項目がある。誰もが思っていたことだろうが、なかなか言いづらいことをビシッと言い切る。山口といえば、酔っぱらって番組共演者の女子高生を自宅に呼びキスを迫り、強制わいせつ容疑で書類送検された。発覚後、TOKIOを脱退し、事務所から契約解除となり芸能界から引退した。当時の報道は山口を非難する論調が強かったが、そもそも芸能界の「構造」に無理が生じているのでは、と喝破する。
〈20代の人気絶頂の時だけならオンナも酒も「今だけは辛抱しろ」って言えるけど、こんな歳までアイドルでいろっていうのは「一生、偶像がバレないようにしろ」って過酷過ぎるミッションなんでね。考えようによっちゃ、これほどの“ブラック労働”はない。現に酒浸りを隠していた結果が、今回の事件につながっちまった。ストレスもあったんだろうよ〉
そして、メディアが妙な配慮をし「山口メンバー」と報じたことにも違和感を表明し、〈いっそのこと「山口組員」って呼んだほうがよっぽど面白かったんじゃないか〉などと毒舌をぶちかます。
他にも「成人式は税金の無駄遣い」や、炎天下の甲子園で連投を続けた金足農業・吉田輝星を褒めたたえるのはハラスメントであると述べたり、高等教育無償化については〈もしどんな大学に行く学生でも学費を無償化するとしたら、税金でバカを量産してるようなものだ〉とする。
昨今は「無菌化社会」的な言われ方をすることもあり、とにかく無難かつ諍いを起こさないことが求められるもの。職場やご近所付き合いでも、上っ面だけの美辞麗句を述べるのに疲れた方は、ガス抜きのためにも読んでみてもよいかもしれない。 ★★★(選者・中川淳一郎)