「あちらにいる鬼」井上荒野著
流行作家の長内みはるは、ある講演会で気鋭の戦後派作家・白木篤郎と出会う。みはるは、初対面からなれなれしい白木をうっとうしく思いながらも、小説家としての白木と、ひとりの男としての白木の両方に魅了されていることに気づく。その頃、一緒に暮らしていた男・真二との生活に倦怠感を覚えていたみはるは、やがて真二を捨て、白木と付き合うことに。
一方、白木の妻・笙子は、何度も繰り返す夫の女遊びを黙認することに徹していた。夫の原稿の清書をし、時には夫の名前で小説を代筆し、夫が付き合って揉めている女になぜか妻である自分が詫びを入れに行くことを受け入れることで、平穏な日常を守ろうとしていたのだ。そんな笙子は、講演旅行の後に、今度は夫がみはると付き合っていることに気づいた。笙子は、いつも女遊びを笙子に吹聴する夫が、なぜか口にしないみはるの存在が気になり始める……。
小説家の父・井上光晴と母、瀬戸内寂聴をモデルに、娘である著者が書くことと情愛で結ばれた不思議な三角関係を真正面から描いた問題作。同じ男に翻弄された女同士の絆を、赤裸々につづっている。
(朝日新聞出版 1600円+税)