「ゲーム旅」toshibo著
「ゲーム旅」toshibo著
廃虚の写真集である。
なぜ人は廃虚写真に魅せられるのか。在りし日の姿を思い、そこに栄枯盛衰の無常を感じるからか。はたまた、何か人知を超えたもののけの気配を感じたいがゆえの怖いもの見たさか。
その理由はさまざまだろうが、本書はほかの廃虚写真集とは一味も二味も趣が異なる。ゲームの中の世界を歩いているような感覚、視点で廃虚を撮影しているのだ。
冒頭の「RPGを旅する」とのタイトルの章は、ツタに覆われた建物の回廊から始まる。回廊には木漏れ日が差し込み明るく、それがかえって、これから起こる何かを予感させる。
次のページに現れる階段を上り、歩を進めると、そこは外国でよく見かけるバルコニーシアターだった。もちろん、ここも朽ち果て、バルコニーの一部は崩落している。
さらに回廊や高いドームの下を通り抜けながら進むと、緑に覆われた広場のような場所に出る。
その中心にそびえる塔から腕を広げるように幾何学的な建物の骨組みが延び、ジャングルジムのような様相をしているのだが、ところどころが破綻をして、往時の姿は、もう思い描けない。また、盛夏のように緑に覆われていた同じ景色が、一変して雪に閉ざされた世界になったりもする。
随所に「古代遺跡のようなトンネルをみつけた」「戦いに備えていったんセーブしよう」などというコメントが入り、ゲーム感をもり立てる。中には、「体力全回復できそうな秘密の洞穴」とのコメント付きで、澄んだ水に満たされた温泉にも見える施設の跡や、巨大な幽霊船が登場したりする。実は、これらはイタリアの病院や劇場、教会、そして秋田の未完成のまま廃虚となった木造ロッジ、千葉県のいけす、幽霊船はタイの元ホテルで撮影されたもの。それらの写真を組み合わせ、読者があたかもひとつのゲームの中を進んでいるかのように構成しているのだ。
ほかにも、どこに向かうのか上下の感覚が失われた世界にあるような階段や、トンネルの天井から噴き出した氷が林立し、氷河期に紛れ込んだかのような場所、突如現れるマンモスの群れ、巨大なガネーシャ像や刃物で頭部分が斬り落とされたかのような得体のしれない巨大な男の顔など、RPGに欠かせないダンジョン(迷宮)やモンスターたちも次々と現れる。以降、「ホラーを旅する」「終末世界を旅する」とそれぞれのテーマによって廃虚写真が並ぶ。
シーンによっては、同じ場所を定点観測しており、崖っぷちの行き止まりの道で、周囲を覆い尽くす植物の緑の中に咲いた花のような“紅一点”が、季節がめぐり、冬枯れの景色になると、その赤い物体が放置された車であることが分かる。まるでゲームのエンドクレジットを見ているかのような連作写真もありドラマチック。廃虚の新たな魅力を引き出した写真集だ。 (芸術新聞社 2750円)