「ゼロ打ち」相場英雄著
「ゼロ打ち」相場英雄著
タイトルの「ゼロ打ち」とは、選挙の開票開始直後、開票率0%に近い時点で、特定の候補者の当選確実を報じることをいうそうだ。
本書は、その「ゼロ打ち」に絡む政治とカネの深い闇、公共放送と大新聞の選挙速報をめぐる争いに斬り込んだ、タイムリーかつ衝撃の作である。
大和新聞社会部の敏腕記者・片山芽衣は、ある日、唐突な解散後の衆議院選挙で、選挙報道センターに配属された。担当するのは激戦の東京1区で、与党民政党からは若き私大教授の若宮が立候補していた。取材に飛び回る中、片山は警視庁捜査2課が内偵していた、ある都議会議員の不審死を耳にし、独自に取材を始める。
そんな中、若宮の女性スキャンダルがネットで拡散される。若宮の選対に入った国会議員の秘書の中村は、都議会議員の秘書・神津の強硬な対処に驚きを隠せない。やがて中村は、神津が作ったファイルに見知らぬ寄付金の一覧を見つける。
片山が書かされた区の提灯記事と大和新聞のゼロ打ちの関係、選挙余剰金の使い方、地方議員が国政選挙で担う役割まで、まるでノンフィクションと見まがう内容がつづられる。
選挙速報の舞台裏はリアルで驚きだ。片山が追う事件とカネの結びつきも見逃せない。
読者は国政選挙の生々しさに愕然とさせられるだろう。
(角川春樹事務所 1870円)