「戦争語彙集」オスタップ・スリヴィンスキー作、ロバートキャンベル訳著
「戦争語彙集」オスタップ・スリヴィンスキー作、ロバートキャンベル訳著
2022年2月下旬、ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まると、それまで平和な生活を送っていた多くの人々が突如戦火にさらされた。ウクライナ西部の都市リビウ在住の詩人オスタップ氏は、東部から逃げてきた避難民の支援をするかたわら、彼らからありのままの証言を聞き取り、戦争語彙集としてまとめ上げた。
本書は、それらの言葉に衝撃を受けた日本文学研究者であるロバート キャンベル氏が自ら翻訳したものを、現地を訪ねた際の手記とともにまとめたもの。戦争によって人は言葉を失ったり言葉の意味が変化したりすることが、掲載されている証言から浮かび上がってくる。
たとえば、バスルームという言葉は、戦争前は快適でリラックスできる場所を意味していたが、戦時下では家の中で隠れることが可能な最も安全な場所を意味するようになった。若者の間でテンションが上がったときに気軽に使われていた「爆ウケ」「爆上がり」という言葉が禁句になった。
困難な状況で発せられる証言の断片から、言葉が物理的避難所とは別のもうひとつのシェルターなのではないかと訳著者は述べている。
(岩波書店 2200円)