元「ザ・スパイダース」前田富雄さん 解散後は鮮魚店で40年
スティックを包丁に持ち替えていたのだ。
「ご近所には競合店、食品スーパーがそれぞれ2店ある。それで刺し身はほとんど天然モノを揃え、それでいて手頃な値段で勝負してます。あと、鮮魚だけじゃなく、自家製の塩辛や味噌漬け、粕漬けがけっこう評判いいんです。電車に乗って買いに見えるお客さんもいらっしゃるくらいで」
夫人と息子、男性従業員の4人で切り盛り。土曜日は2人のパートが加わる。
「毎朝4時に起き、築地に買い出しに行く。現物を自分の目で確認して仕入れます。この商売の一番肝心なところでしょう」
高校時代、ベンチャーズのコピーバンドでドラムを叩いていた前田さんは、ミュージシャンを目指して大阪から上京。スパイダースのバンドボーイ(坊や)になった。
「メンバーの身の回りの世話、楽器運び、セッティング……。坊やは多い時で10人くらいいました。給料は8000円だったか。木造アパートの6畳一間に5、6人でザコ寝してました」