「戦火のバタフライ」伊兼源太郎著
「戦火のバタフライ」伊兼源太郎著
太平洋戦争末期。衛生兵の尾崎洋平は、医師の小曽根太郎と共に南方前線で増え続ける負傷兵への手当てを続けていたが、味方の命を絶つ手助けをするところまで追い詰められた末に、最後にたった一人生き残った。手元に残ったのは、小曽根に託された日記帳と万年筆。日本に戻った尾崎は遺族を探すが、小曽根の家族も東京大空襲で亡くなっていて、残っていたのは小曽根の妹のさくらと幸とその祖父だけだった。
尾崎は戦後、厚生省職員となった自分ができることとして、民間戦争被害者への国家賠償の実現に向けて動き出す。ところが、脅しなどの不審な出来事が勃発。さくらの署名運動にも邪魔が入り、何らかの力で妨害されていることを確信する。戦火を生き延びた者たちは、死者から託された思いをつないで、天国のような国をつくることはできるのか──。
2013年「見えざる網」で第33回横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビューした著者の最新作。言葉に残さなければ失われてしまう記憶の断片が、戦時中の古いノートを発端に語られていく。次世代へと希望をつなごうと願う人々の思いが胸に迫る。 (講談社 2585円)