俳優・大出俊さんが語る「酒好きのおごり」に気づかされた日
私たちには1週間、2週間と続く地方公演の中の一日だけど、お客さんにとっては生で舞台を見られる数少ない一日。まさに一期一会。それがその日なわけです。
ところが、私といえばいつものように前夜に深酒して二日酔い状態。頭はガンガンするし、気分は悪い。正直な話、体調は万全ではなかった。
「私は何をしてるんだ。お客さんに失礼ではないか」……。スーッと血の気が引きましたよ。これではイカン! と。
その日以来、公演やロケの前日は深酒をやめました。どんなに“お付き合い”があっても軽く飲んでサッと引き揚げ、本番に体調のピークがいくようにコントロールする。それが客席にお越しくださり、またはテレビやスクリーンの前でご覧になってる方への感謝の気持ち、礼儀です。
7年前、胃がんの摘出手術をして、胃は正常時の3分の1しかありません。だから、晩酌は欠かさないものの、若い時分よりめっきり酒量は減りました。
でも、もし気仙沼で深酒をやめる決心をしなかったら、この年まで役者を続けていられたかどうか……。
そう思うと、あの夏の暑い日ってのは、私の酒人生の中でも大きな意味があったんだね。