ドラマ「ちゃんぽん食べたか」 さだまさしのルーツ辿る時間旅行
【連載コラム 「TV見るべきものは!!」】
さだまさしの伝記ドラマと聞いて、当初は懐疑的だった。半端な成功物語や自慢話なら勘弁してほしいからだ。しかし実際に見てみると、普遍性のある青春ドラマとして、よくできている。
主人公の雅志(菅田将暉)は高校2年生だ。プロのバイオリン奏者になるべく長崎から上京し、芸大を目指して下宿生活を送っている。本来はバイオリンに集中すべきなのだが、級友たちと文化祭を盛り上げたり、バンドのコンテストに出場してみたりと、やや現実逃避気味。無意識ながら、自分探しの渦中にある。
まず、菅田をはじめ若手俳優たちに注目だ。級友役の間宮祥太朗、泉澤祐希。やがて、さだと組んで「グレープ」を結成する吉田政美を演じる本郷奏多。そしてドラマの中のマドンナ的存在である森川葵。今後の成長株が顔を揃えている。
尾崎将也の脚本は周囲の人たちを単なる脇役や引き立て役にせず、一種の青春群像劇として時代の空気をも描こうとしている。当時を知る者にはほろ苦い懐かしさを感じさせ、知らない者には人も音楽も新鮮に映る。
特にさだまさしのファンはうれしいだろう。音楽との関わり、達者なトークの原点である落語など、このドラマはさだのルーツをたどる時間旅行だ。“昭和40年代ドラマ”として丁寧に作られており、ファン以外の視聴者にも十分オススメできる。
(上智大学教授・碓井広義=メディア論)