市川由紀乃に歌手“再出発”を決意させた大作曲家の笑顔
演歌歌手は男と女の情念、情愛を歌う、繊細な表現力と同じくらいに、タフな精神力を要求される。ヒットを望む周囲の期待に応え、どれだけ努力しても報われない日々がほとんどだからだ。歌手の市川由紀乃さん(39)も、心が折れて疲れ果て、ステージに立てなかった4年半がある。
■歌の世界を離れてからは「歌番組」も見なかった
私が25歳のときのことです。歌も人生も一歩も前に進めなくなり、事務所の社長に「辞めます」と言って、新宿の天ぷら屋さんで働くことにしたんです。17歳でデビューして以来、歌の世界だけで生きてきたので、履歴書を書くのも初めてで……。最初の1年間は歌番組も見ませんでした。
歌とのつながりといえば、作曲家の市川昭介先生(享年73)の毎年の同門会。大先輩の畠山みどりさんらが、辞めた私にもお便りを下さり、顔を出させていただいていました。先生は「今どうしてるの?」と優しい笑顔で迎えてくださり、私の話に耳を傾けてくれました。どうして辞めたのかとか、問い詰めるようなことは一切ありません。