大高宏雄氏が追悼 反体制反権力貫いた鈴木清順さんの美学
堀社長の逆鱗に触れた作品が、宍戸錠主演の「殺しの烙印」(67年)だ。殺し屋のナンバーワンを目指す男たちのサスペンス劇だが、とにかく描写や話の展開が度外れていた。極め付きは宍戸演じる殺し屋が炊飯器を開けてその匂いを嗅ぎ、恍惚となるシーン。この無意味性とグロテスクな笑いの喚起力こそ、清順美学の真骨頂であった。それから10年後、衰え知らずのハチャメチャぶりが凄まじかった「悲愁物語」を撮ったものの不入りで、再度の“沈黙”を強いられる。ただ、清順を救った男がいた。昨年11月に亡くなったプロデューサーで俳優の荒戸源次郎氏である。「ツィゴイネルワイゼン」(80年)を撮らせた。あの世とこの世を行きかう人間たちが幻想的な映像美の中でさまよう姿が素晴らしく、エアドームという特殊な上映形式ともども多大な評価を得た。
監督の歩みはのちも波瀾万丈だったが、個人的には日活のはみ出し監督時代の作風が何といっても懐かしい。筆者の青春期と重なったからだろう。加えて、名画座の暗い席から見続けた清順映画の魂は、やはり娯楽映画が似合っているとの思いが強いのだ。
清順さん。刺激的なたくさんの映画をありがとう。心からご冥福をお祈りします。
(大高宏雄・映画ジャーナリスト)