「Outsider Photography in Japan ゆびさきのこい」都築響一編
「Outsider Photography in Japan ゆびさきのこい」都築響一編
インスタグラムの月間利用者数は約20億人、実に人類の4分の1にも及び、ネット空間には日々、天文学的な写真が投稿され、その数は日ごとに膨張している。
カメラは、もはや一部の専門家だけではなく、万人にとっての自己表現手段となった。
本書は、そんな「自分のいちばん身近にある道具」を使って、「ほかのどこにもない写真」を撮り続けている人たちの作品を編んだ写真集。
冒頭の作品からその「ほかのどこにもない写真」の迫力に圧倒されることだろう。それは一見すると家具などが置かれていないどこかの部屋にも見えるが、突き当たりは暗闇で、見ていると吸い込まれそうになる。
それもそのはず、そこは吸い込むことが本来の役目である建物のダクト内を写した写真だという。
撮影者の木原悠介氏は、長い間、ダクト清掃のアルバイトに従事。報告のために現場の写真を撮っていたが、やがて面白さを感じて「写ルンです」で自分用にも撮影するようになったそうだ。
「写ルンです」を利用するのは、デジカメだとすぐに油やほこりでだめになってしまうからで、その仕事の過酷さがよく分かる。
作品に写るダクトは形状も汚れ方もそれぞれで、どれひとつとして同じものはない。
編者は、ダクトは「僕らのすぐそばにあるとびきりの異空間」であり、木原氏の作品を「オシャレに装われた都市の日常の、内側に隠されたおぞましきリアリティをぺろりと裏返して見せられるような、奇妙でスリリングな視覚体験」と評する。
苦悶の表情を浮かべた男たちの歪んだ顔を撮影するのはmimiさん。男たちの顔が歪んでいるのはmimiさんの太ももに挟まれているからだ。ならばそれは苦悶の表情ではなく、もしかしたら悦楽の表情なのかもしれない。
また「露光零」さんの「美脚星人」シリーズは、ミニスカートとピンヒールの後ろ姿の自撮りポートレート。
前かがみのヒップを強調したアングルで、上半身は写っておらず、加工してあるのかと思いきや、ポーズや角度を試行錯誤した上で撮影した、一切無修正の作品だという。屋内外を問わずさまざまな場所でまるで下半身だけが景色の中を浮遊しているような奇妙な錯覚を覚える。
カメラではなく、コンビニのコピー機を表現手段として用いるのは井口直人氏の作品だ。アール・ブリュットに分類される氏の作品は、施設の行き帰りにコンビニのコピー機に自らの顔をのせ、その時々のお気に入りといっしょに撮影する「自撮り」だ。日に何度もコンビニに通い、これまでに写した作品は数万点にも及ぶそうだ。
「映える」などという現代人の価値観を超越して、自らの内側から湧きあがる撮りたいという要求に素直に従った13人の作品を収録。
スマホのシャッターを押すあなたの指は「誰」に「恋」をしていますか?
(クラーケンラボ 4180円)