勸玄効果で満員 クールな海老蔵で見せる太閤記&源氏物語
最後は本水を使っての立ち回りで涼しい気分になって帰ってもらおうという趣向。サービス精神に満ちた娯楽大作なので、小難しく考えずに楽しむのが正しい。
問題作は夜の「源氏物語」。完全な新作で、能、オペラ、華道、プロジェクションマッピングという最新映像技術を導入して、日本最古の物語を劇化する試みは、何重にもねじれた結果、ちゃんと「日本」となっているのだから不思議だ。
「源氏物語」は男女の愛の物語として描かれることが多いが、今回は「父と子」、宮廷内の権力闘争が前面に出る。愛の物語は劇中でセリフとして語られるだけで、直接の描写はない。恋愛シーンなき「源氏」である。息子が出るからなのか、家族連れでも安心してご覧いただけますという感じで、「危険な香り」がない。
舞台の上には「空虚な美」しかない。それ以外、何が必要なのだといわんばかりで、たしかに、それで十分ではある。
昼夜とも、海老蔵から激しさ・熱が消え、「クールな海老蔵」だ。
(作家・中川右介)