「しとやかな獣」ネコババ、妾、ヤリマンが描く倫理観崩壊
幸枝は悪女ぶりを存分に発揮。こちらも体で稼いだことへの罪悪感はゼロだ。香取は使い込みの被害者だが、彼も会社のカネを着服していた。要するに全員がダーティーな顔を持っているのだ。
その相関関係をカメラは上から下から縦横無尽にのぞき見する。真っ赤な西日を浴びながら親がそばをすすり、子供たちがロックで踊り狂う場面は幻想的な妖しさがある。
海軍中佐の娘が体で稼ぐのは、戦争指導者の判断ミスによって戦後女性がパンパンに追いやられたことを暗示。軍人の父はぜいたくをしたくて道を踏み外し、息子と娘はアメちゃん文化にどっぷり。子連れの幸枝はいわゆるヤリマンだ。敗戦による日本人の倫理観の崩壊がブラックに描かれている。
96分間の密室劇の結末はどこにでもある家族のまどろみ。パトカーのサイレンで目覚めたよしのの顔は何を言おうとしているのだろうか。 (森田健司)