十朱幸代さん デビュー作で共演した岩下志麻さんの思い出
2人は現場でも仲良し、こんなエピソードも。
「岩下さんの出番は毎日ではなかったけど、よくお会いました。最後の洗濯場のシーンというのがあってね、なぜか2人とも笑いが止まらなくなっちゃって、笑ったまま終わっちゃったの。そうしたら、あとで共演者からもディレクター、放送作家からもものすごく怒られて。でも、私はその時は泣いて謝るんだけど懲りずにまたやっちゃうのね(笑い)。それでも許してくれてかわいがってもらいました。すべてが楽しくて、あの5年間は私の青春時代、『バス通り裏』は私の青春です」
「元子」はすっかりお茶の間の人気者になり、日本を代表する“隣の家の女の子”になった。1年後には映画から声がかかり、木下恵介監督の「惜春鳥」で銀幕デビューを果たす。この時の主演が8月に亡くなったばかりの津川雅彦さん。十朱さんの手元には、木下監督と津川さんと3人で写った貴重な一枚もある。
「津川さんは本当に美少年という感じ、奇麗でしたよ。当時、17歳くらいかな。初々しくてとても印象的でした。後年はなかなかお目にかかる機会がなかったけど、今も亡くなったなんて気がしません。当時の私は女優っぽくなかったかしらね。セリフを覚えていかなかったから、木下監督には『君! セリフを覚えてないのか』ってすごく怒られた。生放送のテレビはギリギリでセリフを覚えて、生本番ですから、テレビと同じでいいのかなと思っていました(笑い)」
以来60年。ドラマ、映画、舞台、朗読劇と活躍を続けている。そんな来し方を語った「愛し続ける私」(集英社刊)が、5日に発売される。