"残念"な性格を知っているからこそ松坂桃李は挑み続ける
約10年前のことだ。まさか受かるとは思わなかったが、主役であるレッド役を射止めたのだ。だが、演技経験はまったくなかった松坂は現場でずっと怒られ続けた。実際、番組開始当初、正直言って滑舌も演技も不安定。「この先、大丈夫だろうか?」と不安になる立ち上がりだった。
しかし、そんな役者の成長を1年間見守るのも、このシリーズの醍醐味のひとつ。彼はその期待に見事に応えた。最終的には、みんなが「殿」と慕う説得力を持たせる魅力を放ったのだ。だから、いまでも彼のことを「殿」と呼ぶファンは少なくない。
その後は、朝ドラのヒロインの相手役、童貞の小学校教師、熱血青年将校などを演じた。彼のパブリックイメージは「爽やかで真面目。でも不器用」といったところだろうか。けれど、20代半ば以降、それとは反した役柄も積極的に演じるようになった。
極めつきは18年4月公開の映画「娼年」(配給ファントム・フィルム)。登場するほとんどのシーンが半裸の娼夫を演じた。「20代の時にやっておいた方が、30代になったときに生きる」(TBS「サワコの朝」19年5月11日)と思ったのだ。
自分がやり慣れた役ばかりをやっていると、「自分に課すハードルが低いままになってしまう」「性格的に甘えになってしまう」(同前)と。松坂は誰よりも自分の“残念”な性格を知っている。だからこそ、どれにも当てはまらない新しい役柄に挑戦し続けている。