トリの談志が遅刻するとヒザ代わりがつなぐことに…
談志は正楽の芸を高く評価していた。著書の「談志百選」(講談社)で初代正楽を取り上げ、小正楽時代の当代正楽についてもこう記している。
「紙切り、という芸は最も寄席の色物らしい芸で大好きだが、それだけにセンスの悪い奴は嫌いだ。いっちゃワルいがほとんどダメだ。けど一人、小正楽だけはいい。こ奴も頭がいいのだろう。秋に三代目正楽を継ぐと聞いた。結構なこった」
大絶賛である。私はそれを知っていたから、談志の一周忌に末広亭で追善興行をプロデュースした際、正楽にも出てもらった。
「当然お客は談志ファンですから、事前に師匠のさまざまな形を切っておきました。それをOHP(オーバーヘッドプロジェクター)に映したんです」
OHPを使うと、切った物が大きな影絵となるので、後方の客にもよく見える。その時、正楽が用意したのは十数枚。どの姿も談志の特徴を捉えた素晴らしい作品だった。次から次へと映し出される談志の姿に、客は一枚ごとに歓声を上げ拍手を送った。紙切り芸の神髄を見たような気がしたものだ。 (つづく)