プロデュースに差…客の気持ちで選べぬ松竹vs選べる海老蔵
歌舞伎座は演目を選ぶにあたり、客の気分を考えていない。
新橋演舞場は市川海老蔵一家の公演。本来なら、昨年13代目市川團十郎白猿となっていたはずが、コロナ禍で無期延期。半ば開き直っての初めて「海老蔵歌舞伎」と銘打っての公演だ。最初は市川右團次、中村児太郎、中村壱太郎の曽我兄弟ものの舞踊劇「春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)」、次が歌舞伎十八番のひとつ「毛抜」で海老蔵主演。歌舞伎には珍しい推理劇である。海老蔵が老獪さを出せるようになってきた。最後は娘の市川ぼたんが「藤娘」に挑み、堀越勸玄と海老蔵が牛若丸と弁慶を演じる「橋弁慶」。将来、「勧進帳」で同じ役を演じる布石のひとつとして、選ばれた。
海老蔵は、プロデューサーとして、客が何を望んでいるか、どんな気分で劇場に来るのか、意識して演目を決めている。17日までと短いせいもあるが、初日を前に完売した。コロナ禍にあっても、役者と客との幸福な関係が維持されている。
(作家・中川右介)