森本レオさんの「巣ごもり生活」 本と古い映画と演劇論と

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森本レオさん(俳優・77歳)

 今日も今日とて高円寺の喫茶店です。ワインやビールが1杯330円、2000円もポケットにあれば日中いっぱい、ここで過ごせます。僕は赤ワインにジンジャーエール、ちょっぴりシナモンを入れたやつを飲んでる。

 人混みはやっぱり怖いけど、もらった黒にんにくと、ヨーグルトを1日1個食べ、ひとり静かな時間を過ごしています。

 10年くらい前に心筋梗塞をやっています。僕は体力も能力もない人間ですから、マネジャーもキツイ仕事を入れないようにしてくれています。ナレーションの仕事は密になりにくいので、そういうのはやってますけど。

 趣味の将棋はすっかりご無沙汰。僕の携帯はガラケーなので、アプリをナンとかロードして将棋を楽しむってこともできない。ただ、時間だけはいっぱいあるので、最近は「ユダヤ・アラブ三〇〇〇年の闘い」なんて本を読んでます。エジプト考古学者の吉村作治先生が少し前に出された本です。

いい役者って「芝居をしない人たち」のこと

 歴史を学ぶと、時空の向こう側への興味が尽きなくなるんですよね。旧約聖書の前からあったケルトやギリシャ神話も読みたくなる。そのギリシャ神話にアルゴナウタイっていう物語があって、簡単にあらすじを紹介すると、大船に乗って黒海を北に向かう主人公に途中で勇者たちが集まり、協力しながら黄金の羊の毛皮を持ち帰るっていう冒険譚。映画の題材にもよく使われていて、聖書などと共に欧米人の文化や教養の基礎ともなっているんですね。これを読むと欧米の役者たちの考え方が少し分かる気がしてきます。

 そう思いながら古い映画を見返すと、ジョン・ウェインやジェームズ・ディーンはいい役者なんだなぁと思う。結局、いい役者ってのは芝居しない人たちのことなんだろうね。「ゴッドファーザー」のマーロン・ブランドの演技なんて、我々凡百の役者のマニュアルからしたら異質だし、間違っている。シチリア島から出てきた極悪マフィアのドンだというのに、その目はいつもオドオドして、頼み事をしてくる友人の目すら真っすぐに見られない。日本の役者にあれを演じさせたら、きっと怖い顔で演技をしてたんだろうけど、マーロン・ブランドはラストシーンの畑で孫と遊んでいる時だけ、笑顔というか素の表情を見せるんですね。やっぱり演技を追究していくと、いい役者って演技をしなくなるってとこに行きつくのかなぁ。

これからはお金を使わずに生きたい

 岡山県の総社市に鬼ノ城という古代朝鮮式山城があってね、その城壁は板に挟まれた間に土を入れてつき固めた版築作りでできている。聞くところによると、この版築は中国の殷王朝から続く、長城にも用いられている技術なんですって。

 そして桃太郎伝説のお馴染みのストーリーにしても、その源流は古代ギリシャや古代インド、中国・朝鮮半島の伝承に行き着くのです。備中神楽「吉備津」では、民を苦しめる温羅と戦った吉備津彦命は、降参した温羅を神として祭るんですね。渡来の話が日本の文化と融合し、悪漢をただの悪のままにしない。そういう文化も日本人の精神性としてあるんです。地元住民が行う草歌舞伎でも桃太郎と鬼が抱き合って泣くシーンがあるほどですから。

 人生の残りの時間は、お金を使わずに過ごしたい。そのひとつが辞書を開くこと。「Love/愛」の語源は、「Believe/信じる」に由来するという説があるのですが、字ヅラからすると「Leave/去る」や「Leaf/木や草」に似ている。

 僕の個人的な解釈ですが、成長して実をつけるLeafは富や財産の象徴であり、財産を残して去っていった夫に妻はようやく愛を感じる。つまり、愛ってもんはその程度のものなんです。でも、それも愛なんです。

 コロナで窮屈な時代になってますが、イノベーションって言うんですかね、新しいものってのは窮屈な時代にこそ生まれてくると思うんです。

 まあ、僕はおとなしく消えていくつもりです。

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