「鬼滅の刃」興行収入歴代1位は決して想定外ではなかった
そもそもフツーの人は見る映画(特にアニメ)を「スタジオ名」か「監督名」のいずれかで選んでいる。皆さんだって家出する高校生の話が見たくて「天気の子」を観賞するわけじゃないし、歩く城に興味があって「ハウルの動く城」を見に行くわけでもないだろう。監督が新海誠だから、ジブリだから、あるいは細田守監督だから、ピクサーだから見に行くわけだ。極論すればその2つにしか「人々を劇場に呼び寄せ、1800円を払わせる」力はないのだ。
「鬼滅の刃」を作ったのはufotableというアニメスタジオだが、ここはアニメファンにとっては、01年当時のジブリ並みの超一級ブランドで、興収数十億円分くらいの“基礎票”は持っている。ここに、コロナ禍の話題作不足で映画館含む業界全体が「ufo」ブランドに頼るほかない特殊な状況が“風”となって加わり、怒涛のオープニング興収となったわけだ。ちなみに「千と千尋」の時も、シネコンの普及期で目玉番組が不足していたという類似状況があった。
唯一違ったのは、国民全員がアニメ界の「スタジオブランド」を認知していた01年当時と異なり、アニメビジネスの裾野が広がり多様化した21年現在では、業界最強のそれすら一般には認知されていなかったという点だ。だからマスコミも「鬼滅」のヒットを理解できず「なぜ?」「どうして?」と右往左往した。それがまた人々の興味を喚起し、さらなる2段ロケット興行となった。いかにも集団志向の強い日本社会らしい、ユニークな「ブームの成立過程」だったと言えるだろう。
(映画評論家・前田有一)