山口洋子は「波瀾万丈の3冠王」 権藤博は弔辞でそう述べた
洋子が相手の男の名前を尋ねると、ホステスはよもや婚約者と思わず《易々と名前を口にした》とある。《もしかして、私とのことは知らないのか、おそらくそうだ》と、彼女に害意がなかったことも示唆するが、そんなことは、もはやどうでもよかったはずだ。
洋子は苦しんだ。権藤のにおいが残る自宅のベッドルームでは、《眠るどころか、物をとりにいくのも躊躇われた》というから当然かもしれない。
こののち洋子が取った行動は、驚くべきものだった。権藤に対し婚約不履行の訴えを起こし、せしめた和解金500万円で「姫」を再開させたのである。
《いっそのことひどい悪女を演じぬかなければ、未練も断てない。男の前でいままで虫も殺さぬ可愛い女が、がらりと豹変してみせたのだ》(同)
かくして泥沼の破局劇を演じながら、後年は関係を修復させ、よき友人となり、文芸誌で対談まで行っている。常人では想像もつかない行動規範である。「プロ市民」や「プロ彼女」という言葉があるように、山口洋子とは「プロ人間」かもしれない。