「何十回練習するより高座で1度やったほうが身に付くものでして」
伸の師匠、北見マキは和妻を演じていたが、弟子に同じことをさせなかった。
「僕はマニプレーションマジシャンとしてデビューしました」
マニプレーションとは聞き慣れない言葉だ。
「両手の指を使ってカードやコイン、球を操る。技術で見せるマジックです。弟子が師匠と同じことをやっても売れませんから。入門して1年後、先生が落語芸術協会に入会した時、僕も入れてもらい、寄席に出られるようになったんです。10代で入会したので、後から入った落語家さんはほとんど年上でした。その時点で先生のアシスタントを卒業し、1人で高座に上がるようになりました」
今も寄席に出ているのは、大きなメリットがあるからだという。
「新ネタを試すことができるんです。何十回練習するより、高座で1度やったほうが身に付くものでして。マジシャン仲間に羨ましがられます」
マニプレーションの技術を磨いた伸は昭和59年、腕試しのために渡米する。