山路徹さん「三角関係」騒動の時も作ってくれたのり巻きは人生の失敗の味
山路徹さん(59歳/ジャーナリスト)
戦場ジャーナリストとして活躍し、2010年には三角関係騒動で一躍注目を集め、恋愛マスターとして名を馳せた山路徹さん。現在の活動は虐待された犬や猫の保護が中心。その経緯から語ってもらうと……。
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動物保護のきっかけは2011年3月11日に発生した東日本大震災です。
僕ら取材班は16日に福島入りしたんですが、この日は福島第1原子力発電所の炉が、あともう一つ爆発したらおしまいだっていう日でした。
地震と津波に襲われて、がれきと化した町の異様な静寂の中で犬や猫、牛とかの家畜だけが取り残されていたんです。放射線に用心しながら車から降りると僕らの顔をジーッと見ているんですよ。切なかったなあ。
3月末になったら警戒区域に入れなくなる、そうしたら、このコたちは全滅するんじゃないかと思って、救出活動を呼び掛けました。それに賛同してくれた方々と今でも犬や猫の保護活動をしているんです。
さて、本題の僕のおふくろメシですが、のり巻きです。
こどもの日とかクリスマス、お正月、遠足のお弁当など祝いごとやイベントの時には母親が欠かさず作ってくれました。のり巻きって、作っている時に両端を落とすでしょう。それをつまみ食いするのが大好きでした。
どんなのり巻きでも好きですが、いまだかつて母親の作るのり巻きを超えるものは食べたことがありません。
といっても、特別なものじゃないですよ。具材はごくシンプル。シイタケと甘い卵焼き、でんぶにかんぴょう。今回の取材を機に母に聞いたら酢飯には塩を入れ、砂糖は隠し味程度だそうです。これらがうまく調和して口の中に広がるその感覚は、他ののり巻きにはないんですよ。
僕が思うに卵焼きがポイントじゃないかな。僕は卵焼きが大好きで、ウチのは醤油味で甘めなんです。これさえあれば、僕は何杯でもご飯いけちゃいますね。そして味だけではなく僕にとってのり巻きは特別な意味があるんです。
たばこで停学処分になった時も
実は高校の時にトイレでたばこを吸って、先生に見つかったことがあるんですよ。それが期末テストの3日前だった。トイレから職員室にそのまま連れていかれて、即行で停学処分ですよ。教師からは「期末テストを受けられるかどうかはすぐに判断できないが、とにかく帰れ」と言われました。母親に合わせる顔はないし、何より試験が受けられなくなったらどうしようって思いながら帰ったんです。
■「何事も経験よ」
それなのに母は「何事も経験よ」と言ってその日、のり巻きを作ってくれたんです。父も何も言わないし、逆に「これでいいのか」って思ったくらい。だって、キッパリと叱られた方がスッキリするじゃないですか。それなのに、のり巻きですよ。なんか逆に怖かったですね。
だから、たばこくらいで両親にイヤな思いをさせちゃいけないと思って二十歳になるまで禁煙しました。母親って、おおらかなものなんでしょうけど、やっぱり怒られたかったな。でも、僕の場合、怒られなかったから、自主的に禁煙したわけで、おふくろとしては「してやったり」だったかもしれませんね(笑い)。
停学の件は、普段は真面目な生徒だということで、とりあえず試験だけは受けさせようと判断してくれて結局、2日で済みました。
それから30年後の2010年、例の僕の騒動が発覚した時は北海道から沖縄まで全国区で非難の的になりました。実家に帰ろうにも、ものすごい数のマスコミの人たちが家の前まで押し寄せて母親にもご近所の方々にも迷惑をかけました。あの時は家の中には入れなかったです。
年が明けてほとぼりも冷め、ようやく実家に帰った時にものり巻きが出てきました。そしてその時も母は「何事も経験だから」と(笑い)。この時ばかりはさすがに苦笑しました。この一言を聞いた瞬間、高校生時代のたばこの一件も思い出しましたね。
僕にとってのり巻きはおふくろの味であり、人生の失敗の味でもある特別な料理です。
だから、母が作ったものを口に入れた瞬間、単純に味だけではなく、いろんな記憶がビジュアルで思い出されてくるんです。
(聞き手=李京榮)
▽山路徹(やまじ・とおる) 1961年生まれ、東京都出身。TBSテレビ、テレビ朝日系プロダクションを経て92年に独立し、国内初の紛争地専門の独立系ニュース通信社である「APF通信社」を設立。同社代表取締役として国内外に配信する傍ら、全国規模でペットの殺処分問題や本質的な地位向上に取り組んでいる。
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