<21>800万円のロングコートを着てムービーカメラの前で悪代官のように振る舞う
じいさんが店から出ていった後で一緒に飲んでいたマコやんが笑った。
「そりゃあ、和歌山がメジャーにならないと悔しいですから。こんないいところはないんですよ」
「ほうかいな」
マコやんは串本町の出身であり、そこには本州最南端の潮岬がある。台風の季節になると頻繁にニュース映像に登場する岬の白い灯台の近くで生まれ育った。他県に行くことが少ないらしく、それが和歌山の良さを認識していない理由なのかもしれない。
「ヨッシーがしゃべっていたじいさんというのは、アレやで~」
マコやんが店の入り口を指さした。透けたガラス扉の先には、10階建てほどの大きな高級リゾートホテルが見える。
「エッ? あのホテルの従業員さんですか?」
「んや、あのホテルの社長さん。観光協会の役員のはずや。それを説教してたんやから、噴き出しそうになってたわ」
「途中で教えてくれたらいいのに、人が悪いんだから……」