<21>800万円のロングコートを着てムービーカメラの前で悪代官のように振る舞う
■800万円の茶色のロングコート
翌日は朝からドン・ファンと愛人の撮影が始まった。2人は勝浦の沖にある高級ホテルから船に乗って戻ってきた。船を下り、岸壁を歩いているドン・ファンは機嫌がいいようで、800万円もする茶色のロングコートを着て笑顔を見せている。
「まるで悪の権化じゃないですか。金で愛人を自分のものにする悪代官って絵面ですよ。こんな絵が欲しかったんです」
スーさんがムービーカメラを向けながら喜んでいた。社長と愛人を乗せたベンツは、次に那智の滝へと向かった。ここでは愛人が撮影を嫌がって車から降りなかったので、ドン・ファンは1人で長い階段を下って、滝が望める社務所脇まで歩いていった。スーさんと私もそれを追いかけた。スーさんはカメラを回している。
「はーい、ハッピイオーラ、ハッピイ、エレガント!」
そこには中国人の団体客が十数人いた。その中の若いべっぴんさんを口説いているドン・ファンの姿も撮ることができた。
「ハッピイオーラ、ハッピイエレガント、私とエッチしませんか?」
これが彼の定番の口説き文句で、いつも見境なく口にしていた。