“スター選手”沢村忠は野口修社長の目を盗んで銀座の竜宮城へ
キックボクシングで大人気の沢村忠が下戸にもかかわらず「姫」に現れるようになったのは「ようやく俺もスターになった」という意識の表れとみていい。「姫で飲めるようになったら一人前」と言われた時代ならではと言える。
作曲家の平尾昌晃の証言がある。
「沢村君と初めて会ったのは『姫』だったね。ある時期はしょっちゅう顔を出していたよ。大人気だったからモテてたと思う。ただ、彼が姿を見せるのは野口さんが来ない日って決まっていた。遊んでいる姿を見られるのは、バツが悪かったんだろうね。『そんなの気にしなくていいのに』って本人に言ったこともある。だって、野口さんのお目当てはホステスじゃなくて洋子ちゃんなんだから(笑い)」
「姫」の常連客のひとりである作家の吉行淳之介が「まるで竜宮城のよう」と言ったように、客もホステスも華やかな「姫」では誰もが時間を忘れた。連日、リングの上で暴れ回っていた沢村忠も“竜宮城”では夢のような時間に浸ったはずだ。
マダムの山口洋子が若い美女ばかり集めるうちに、駆け出しの女優やモデルがアルバイト感覚で働くようになった。それでも洋子は「ねえ、女優やモデル志望で暇してる子いない?」と芸能関係者の顧客に触れ回った。必然的に「姫のホステス」とは「スター予備軍」を指すようになった。