<88>2度目の家宅捜索で精悍な顔つきの刑事2人に捜査協力を打診され…
「うん? そうだけど」
取材陣の注目を浴びるのは苦手なので、向かい側の家の陰に入った。まだ多くのマスコミは私がドン・ファン本のゴーストライターであることも知らなかったし、ドン・ファンと親密な関係であることも知らず、私の顔も知られていなかった。
「はい、どうぞ」
名刺を交換して目を落とすと和歌山県警本部の刑事で、警部補と巡査部長だった。ひとりが持っていた黒いカバンからは「紀州のドン・ファン」のパートⅠが顔をのぞかせていた。
「あなた方はまた家宅捜索ですか。26日の真夜中にも5時間やったのは知っているでしょ。ボクは捜査員たちの残業代稼ぎだと思っていたけれど」
刑事たちは苦笑している。
「それを読めば社長の交友関係がわかりますから」
本を指さした。
「まだ半分しか読んでいないんです。なにかあったら捜査に協力していただけますか?」
「その前にこれを見なさいよ。真夜中の家宅捜索のときにオレの腕を引っ張って家の外へ追い出されたときについたんだ」
半袖の腕をまくって青紫に内出血した箇所を示した。
「これは傷害事件でしょ。謝りに来ないうちは協力できませんから。わかるでしょ」
「まあ……」
2人は困ったように目をそらした。(つづく)