<67>三四郎池で出会った光景 人生ではノスタルジーが一番大事なんだね
これはね、“三四郎池”で撮った写真なんだよ。東京という大都会の真ん中の東大本郷(東京大学本郷キャンパス)にある三四郎池ですよ、ここは。小さな沼みたいなとこだから、決してキレイなところじゃないんだけど、そこにパーって光がきてね。写真の原点っていうかさ、写真もこうじゃなくっちゃいけない! 人生もこうじゃなくちゃいけない! っていうことですよ。なんでも光なんだよ(笑)。
がんになって東大病院に行かなかったら、こんな光景に出会わなかった
この写真を撮ったのは、前立腺がんの手術(2008年)を受けた後なんだよ。大学は、東大に行けなかったからさぁ(笑)。ザリガニ獲りに東大に行ってたなんて言ったりしてたけど、本当はこのときに初めて本郷に行ったんだよ。(都立)上野高校卒なのに(笑)。立花隆じゃないけど、「がんになってよかった」っていうこともあるんだよ。だって、がんになって東大病院に放射線治療に行かなかったら、こんな光景に出会わなかったんだから。昭和みたいな格好の子どもが遊んでたんだよ、三四郎池で。(ジャーナリストでノンフィクション作家の立花隆と荒木は上野高校の同級生。立花は本年4月に急性冠症候群のため80歳で永眠。2007年に膀胱がんを患い、「がんの最前線」を取材、テレビ番組も制作された。連載55に<立花隆>掲載)。
「たけくらべ」が写っちゃってんだから
自分を見たとかなんとかじゃないけど、オレのはじまりが「さっちん」じゃない(荒木は1964年に大学時代から撮影していた「さっちん」で第1回太陽賞を受賞)。坊主頭にしたら「さっちん」はオレなのよ。そっくりなの。それとこの女の子、(樋口)一葉の『たけくらべ』じゃないけど、美登利に見えてきたり、男の子が信如じゃないかって思えたりすんのよ。不思議でしょうがないんだよ。『たけくらべ』が写っちゃってんだから、ここに。『たけくらべ』は(台東区)入谷だろ、オレは三ノ輪だからね。
写真は光が作るんだってことだね。こんときは、なんかもう、ざわめきがあったもんなぁ。それで結局、写真はノスタルジーである! っていうことだね。写真っていうのは、まあ写真つーか人生は、ノスタルジーだと確信をもったんだね。こういう光景に出会って。デジタルの時代にさ、都会の真ん中でこういう棒をもって、ザリガニだか鯉を追ってるんだよ。少年時代の思い出とかさ、人生ではそういうノスタルジーが一番大切なんだね。
(構成=内田真由美)