<89>写真の頂点は「ポートレート」背景を無地にすると人生が写るんだよ
10年前になるんだね、オレの写真集の展覧会をイズフォト(ミュージアム)でやってくれたんだよ。それまでに出した写真集を全部集めて、壁に並べてくれたんだ。並べるだけじゃなくて、本を1冊1冊、手にとって見ることもできるようにしてくれてさ。自分でも忘れちゃってる写真集もあったしね、オレの手元にないのもある。おっ、こんな本もあったなとかね、全部見ることができるなんて嬉しいよねぇ。
その展覧会で、「毎日芸術賞」をもらったんだよ(2012年にIZU PHOTO MUSEUMで「荒木経惟写真集展 アラーキー」を開催。電通時代に制作したスクラップブックの写真集から最新刊まで454冊の写真集・著書を展示、そのほぼすべての本を実際に手にとり、ページをめくって見ることができる展覧会。この展覧会により、「第54回毎日芸術賞」特別賞を受賞)。
三津五郎さん、いいねぇ~。いい人だったのに…
「毎日芸術賞」の授賞式でね、坂東三津五郎さんと会ったんだよ(2013年1月、贈呈式・祝賀パーティーが開催された)。受賞者が一緒に並んでね、隣でさ、オレが見初めたんだもん(笑)。(雑誌連載「アラーキーの裸ノ顔」で)撮らせてくれって、直接くどいたんだよ。嬉しそうにニコニコしてくれてね。
この写真、いいねぇ~。いい人だったのに、亡くなっちゃったなぁ。これからだったのになあ……(三津五郎は2015年、すい臓がんのため59歳で永眠)。改めて、サシで撮りたかったからさ、背景を無地にしてね。わざわざ、(撮影)スタジオに来てもらって撮ったんだよ。
背景を無地にして、サシでみんな撮りたい
やっぱりね、今は、背景は無地だって言ってるんだ。無地にすると写るんだよね、そのときの時とかなんかが。もっと大袈裟に言うと、その人の過ごしてきた人生っつうか、これからの人生、予感っつうかさ。無地にするとでちゃうからね、本人がでるから。三津五郎さんもね、歌舞伎座で撮ると、あの世界の雰囲気や時間が写り込んじゃうから。それをなしにして、背景を無地にして、サシでみんな撮りたいという時期なんだ、今。やっぱり、写真の頂点はポートレートなんだよ。
(構成=内田真由美)