甲本ヒロト、三谷幸喜…自分の才能にも発揮した松重豊の「見る目の無さ」
代表作となる「孤独のグルメ」(テレビ東京系)へのオファーがあった時も「見る目のなさ」を発揮した。「最初、企画書を見せられて、ホントにただオッサンがメシ食ってるだけなんで……。これプロフィルの汚点になるなと思った」(TBS系「A-Studio」2014年11月21日)という。
それが連続テレビドラマ初主演作となり、現在までシーズン9まで制作し続けられているのだ。しかも、食事シーンをメインとし、それをドキュメンタリータッチで描く手法はその後、数多く作られるグルメドラマに多大な影響を与えることとなった。
そんな松重が恩人だというのが演出家の蜷川幸雄だ。「『こんなセリフも覚えてないのか!』とよく怒鳴られましたし、若い頃の怖かった思いがいまでもトラウマになるくらい、蜷川さんという人はもう本当に怖くて」(文芸春秋「文春オンライン」20年12月5日)という存在だった。
そんな中で仕事もなく困窮し、自分の才能を信じられなくなった松重は一度足を洗い、建設現場で正社員として働いていた時期もあった。つまり、自分の才能に対しても「見る目がなかった」のだ。そんな松重を信じ続けたのが蜷川だった。復帰後、「おまえ、役はまだどんどんあるからさ」と、何度も松重を起用したのだ。
「蜷川さんがこうやって使ってくれているんだから、蜷川さんの目の黒いうちは、僕は二度とこの世界を辞めたいなんて言えないな」(同前)と奮起した松重。その後、日本有数の名俳優となったのだ。