死刑囚の前でありえない失言も…刑務所慰問でもらった最上の褒め言葉
「ところが、当の死刑囚の方々は笑っている。もう悟りの境地なんでしょうか。後日、聴衆が書いたアンケート用紙を読んだら、『饅頭よりも楽しかったです』とある。饅頭は甘い物に飢えている囚人の楽しみなんです。それよりも落語の方が良かったというのは、最上の褒め言葉ですね。死刑囚はこんなことも書いてました。『私たちは、死ぬために生かされてます』と」
死刑制度を考えさせられる話だ。その後も、歌武蔵は才賀に付いて、全国の刑務所、少年院を慰問する活動を続けた。そして1998年3月、真打ちに昇進する。
「年功序列で4人一緒の昇進でした。喜びは二つ目昇進時の方が大きかったですね。真打ち披露はパーティーの準備とか、披露興行の時に出す弁当の手配とか、終演後の打ち上げとか、雑事が多いので神経を使う。ただ、師匠の披露口上は感激でした。『こいつは前座時代、よく食ったんですよ』といった話で笑わせて、最後に、『新たなライバルができました。手を取って共に上らん花の山』と締める。いい口上でした」
昇進後、しばらくして、歌武蔵が慕う先輩、柳家喜多八に、「自分の会やってる?」と聞かれた。それが「落語教育委員会」を始めるきっかけだ。 (つづく)
(聞き手・吉川潮)