山田洋次監督に言われた「あなたにうまい演技は望んでません。あなたの人柄が出ればいい」
「橋爪功さんと吉行和子さん夫婦の娘、中嶋朋子さんの亭主役でした。『東京物語』のリメークで、オリジナルでは名優、中村伸郎さんがやった役です。それを見て、監督に、『とてもあんなにはできません』と言ったら、『あなたにうまい演技は望んでません。あなたの人柄が出ればいいんです』と言われて楽になりました」
しかし、監督の指導は厳しかったようだ。
「それは大変でした。朝食にラッキョウを食べるシーンで、何十回もダメ出しされて、スタッフが数えたら、673個食べたとか(笑)。休憩時間に食堂でカレーライスを注文したら、ラッキョウがのってた(笑)。泣きましたよ。(立川)志らくさんによれば、『監督は落語家にダメ出ししないって、鶴瓶さんが言ってたよ』とのことでしたが、とんでもない。僕には厳しかったなあ」 =つづく
(聞き手・吉川潮)
▽林家正蔵(はやしや・しょうぞう) 1962年、東京生まれ。本名・海老名泰孝。78年に父である先代の林家三平に入門。前座名は「こぶ平」。80年、三平没後、林家こん平門下へ。81年、二つ目昇進、87年、真打ち昇進。2005年に9代目「林家正蔵」を襲名。10年、落語協会常任理事に就任。14年、落語協会副会長に就任。