「セクシー田中さん」問題で注目…漫画家と編集者との関係と仕事ぶりはどうなっている?

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 マンガを巡る報道が相次いでいる。「セクシー田中さん」の作者・芦原妃名子さんが自ら命を絶ったのに続き、「週刊少年ジャンプ」の掲載作品を発売前にネット上に公開した疑いで外国籍の男性2人が逮捕された。残念なニュースだが、それで注目されているのが作品ができるまでの過程だ。マンガ家の仕事はどうなっているのか。人気マンガ家のアシスタントを務めたこともあるイラストレーターの太田由紀さんに寄稿してもらった。

 ◇  ◇  ◇

 まずはボクの体験談を紹介します。かつてグルメマンガのアシスタントを務めていました。作業は「ベタ」といって、先生がネーム(後述)に指定した部分を黒塗りにするのが1つ。建物などの背景を描くのが2つ目で、3つ目は余分な線を修正液で消すホワイトです。

 模様や柄などが印刷された特殊な薄いフィルムは、「トーン」といいます。これをキャラクターの髪や服に調子をつけたり、影を表現したりするときに形に合うように貼りつける作業がトーン貼りです。でも、先生に「オマエは下手」と言われて、やらせてもらえませんでした。

 アシスタントは、ボクを含めて4人。自宅とは別の事務所で、会話もなく、黙々と作業。先生の趣味の韓国音楽は静かに流れていました。

 仕事は1日10時間程度で、給料は1日1万5000円。連載の締め切りに間に合う最終日だけ通っていたので、その日に日当をもらって帰りました。これが大まかな仕事場の風景です。

 それでは、周りの話も交えて、マンガができるまでの風景をチェックしてみましょう。

 マンガを描くとき、まずネームを切ります。ネームとは、コマ割りをしてキャラクターの配置と吹き出しの位置を決め、セリフを大まかに示す作業です。人によってはかなり丁寧に描き込む人もいます。

 ネームをもとに編集者と話し合って、完成形を決定。ペンで仕上げます。その作業は「ペン入れ」といい、「NARUTO-ナルト-」の作者・岸本斉史さんのネームは箇条書きのメモだそうです。

■「“腐った玉子”食べたことある?」

 新人は、バイトなどをしながらすべての作業を一人でこなして作品を仕上げると、出版社に連絡して作品を持ち込みます。門前払いはあまりなく、アポは取れます。アポ当日、出版社で編集者に作品を渡すと、質問責めになるのが一般的です。

「この時代はいつ?」

「主人公はどういう設定で、どう展開するの?」

 といった具合に矢継ぎ早に質問され、その返答ぶりと絵の描き方を合わせて、新人の筋のよさを判断しているようです。「編集者にとっては、育てがいがあるか、伸びる新人かどうかが大切」と知り合いの編集者が語っていました。それで筋がよいと判断されると、「次からはネームの段階で持ってきてください」などと言われ、そのまま編集者との関係が継続することが多いようです。

 ちなみにボクがある編集者に作品を持参したとき、「キミ、“腐った玉子”を食べたことある? “腐った玉子”は一口食べたら、もう食べないでしょ。キミのマンガはまさしくそれ」と2、3ページ目を通しただけの原稿をテーブルにバサッと放り出されたこともありました。そのときは腹が立ちましたが、後日談もあるのです。

■新人の原稿料はページ1万円前後で翌月払い

 作品が認められても、最初は1回読み切りでスタートして、それを何度か経験して雑誌連載を勝ち取ると、毎週規定のページ数を締め切りまでに描き上げます。新人の原稿料は、大手出版社だとページ1万円前後が相場ですが、ある出版社ではページ3000円ということも。原稿料は掲載後の翌月払い。収入を得るまでタイムラグがあるため、バイトをする新人は少なくありません。

 背景など複雑な描写があふれる作品だと、新人一人では限界です。配偶者や知人に頼むこともありますが、絵心がないとかえってマイナス。だからといって新人にはツテも財力もありません。アシスタントの日当(1万5000円程度)は作家の自腹ですから、最初はアシスタントを頼むにしても一人で締め切り前のみです。

 困った作家にアシスタントの手配をするのは編集者の仕事。ボクが有名作家のアシスタントになったのは、“腐った玉子”呼ばわりした編集者がキッカケでした。

 人気ギャグマンガ「クレヨンしんちゃん」は、担当編集者が故・臼井儀人さんのマンガに登場した少年に着目し、2人のやりとりを経てスピンオフの形で生み出されたといわれます。編集者のアドバイスがなければ、どうなっていたのでしょうか。マンガ家にとって編集者は、作品の命運を左右する運命共同体。作品からキラリと光る個性を見いだし、それを伸ばすのが編集者の力量だと思います。人気マンガ誌の元編集長Aさんが言います。

「作家はもちろん、編集者も想像力がとても重要です。そのためには幅広く活字を読むこと。最近の編集者は、映画やマンガ中心の情報収集で、想像力が乏しいように思います」

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