芸人の「聖人化」に潜む危険性。バッテリィズ・エースに「いい人」を押し付ける風潮が心配だ

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コクハク

絶好調に見えるバッテリィズ

『M-1グランプリ2024』(テレビ朝日系/以下M-1)で準優勝を果たし、一躍ブレイクしたバッテリィズ。人気が急増し、メディア露出も各段に増え、スター街道を歩んでいるように見える。しかし、現役芸人である帽子田は「バッテリィズは注意すべき点もある」と警鐘を鳴らす。

 かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もある現役芸人・帽子田が、進む芸人の「聖人化」について語る。

【関連記事】「M-1」2位! バッテリィズ・エースの愛され力。“アホ”が殺伐とした現代に必要とされるワケ

エースの「聖人化」が進んでないか?

 M-1の余波は年が明けても続いており、ダークホースながら準優勝したバッテリィズがテレビに出まくっている。SNSを見るとファンも爆増したようでファンアカウントの投稿が延々と流れてくる。

 最初は相変わらずM-1は夢があるなと思いながら見ていたが、密かに心配している点もある。

 バッテリィズは真正のアホであるエースと、ネタ担当のブレイン・寺家のコンビ。エースはアホキャラだが非常にピュアで、朝ドラの主人公みたいな性格だ。性格が良いのは間違いないのだが、M-1以降SNS上では異常なほど「エースのいい人エピソード」で溢れ返っている。

 例えば「生きるのが辛いファンのチケットに『楽しめ!』と書いてあげた」「出待ちしているとかなり優しく対応してくれた」「誰も傷つけないボケをしてくれる」のような人柄がよいという部分にスポットが当たった投稿が多い。

 繰り返すがエースが性格がいいのは間違いない。けれどもファンを中心にSNS上で「いい人幻想」が行き過ぎて、「聖人化」が進んでしまっている。この現象は非常に危険だと思う。

バッテリィズらへの密着番組が決定打に

 聖人化は決勝後に放送された『M-1グランプリ2024 アナザーストーリー』(テレ朝系)が拍車をかけた。

 アナザーストーリーとはM-1のファイナリストの裏側に密着した番組。その中でエースが亡くなった母のことを話しながら涙ぐむシーンがあり、視聴者の涙を誘った。

大衆の意に沿わなかった場合が恐ろしい

 確かに感動的なシーンだったし、誰もがエースのお母さんにM-1を見てほしかったと思っただろう。だが、その感動が「エースは一片の曇りもない、いい人に決まっている」という誘導になったのは間違いない。

 芸人の聖人化は非常に怖い。人気が出る一方で、少しでもファンや大衆の意に沿わないことをすると猛烈に叩かれてしまう危険性をはらんでいる。



 エースも芸人なのでボケようとして失敗して人を傷つけてしまうかもしれないし、ファンが思う「いい人」から逸れた行動をしてしまうかもしれない。今の時代は昔と違って女性問題や容姿に関することなんかも繊細になっている。

 エースがアホ故にその地雷を踏まないとも限らない。他の芸人だと眉を顰められるくらいで済むものが、聖人化されたエースだと、活動に支障に出るくらい叩かれるかもしれない。

 実際、去年の敗者復活ネタが「北海道の観光地をいじる」いう内容だったが、北海道の人から軽い反発が来て、そこからエースが北海道の人に配慮してこのネタをやるのを気にするようになった——というSNSの投稿も見た。

勝手に「聖人化」して叩かないでくれ

 同じくM-1でブレイクした、誰も傷つけない漫才の「ぺこぱ」も同じような現象にあっていたらしい。ちょっとしたことで叩かれたり、「こんな人じゃないと思っていた」とがっかりされていたと聞く。

 芸人の聖人化は意図せず進んでいく。人気者の証だし、クリーンな印象が大事な今の芸能界で、強みでもある。だが、意図せず積み上げた信頼を裏切ってしまうと強烈な「裏切り行為」とファンにみなされてしまうこともあるのだ。

 バッテリィズは面白いしエースも良い人だが、ちょっとでも大衆が勝手に作り上げた「聖人像」と違う振る舞いをした瞬間、SNS上で叩くのはやめてほしい。勝手に信頼して勝手に裏切られたと責めないでくれ、と言いたい。

(帽子田/芸人、ライター)

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