「暖簾の紋章」村中憲二著
「暖簾の紋章」村中憲二著
江戸時代、「家名(姓)」と「家紋」は武士だけのもので、家名の名乗りを許されない商人や職人は、「屋号」と店の紋章である「暖簾」で自らを表した。広報宣伝手段が限られた時代、暖簾に染め抜かれた紋章「暖簾紋」は重要だった。やがて暖簾は「暖簾にかけて」「暖簾分け」のように、店主や店の信用やブランド力を表す存在となっていった。
本書は、老舗企業に今も受け継がれている日本独自の文化「暖簾紋」をテーマにしたビジュアルテキスト。
その成り立ちや、変遷をたどる一方で、暖簾紋に込めた各企業の創業者の思いや経営哲学、さらに創業秘話から激動の時代を生き抜いてきた各企業の歴史まで詳述する。
暖簾紋は江戸時代の1600年代後半から1700年代前半にかけて確立し、商家の紋章として洗練されていったという。
江戸後期から明治にかけて、商人が商談のために土地勘のない別の商圏に出向いても困らないよう、江戸や大坂、京都など各地で商家の案内本が作られた。その各地の案内本に掲載されていた2万8000点もの暖簾紋を採集して分類。
百貨店三越のあの越の文字を丸で囲った暖簾紋のように、その8割は何らかの意匠を外郭で囲っているパターンだという。
丸以外にも四角や三角など外郭の形はさまざまあり、圧倒的に多いのが「ヤマサ醤油」などに用いられている「山形」だ。
まずは、そんな暖簾紋に関する基礎知識を解説。
以降、三菱グループのスリーダイヤモンドや住友の「菱井桁」などの大企業から、実は1721(享保6)年創業というビニール傘を初めて作った企業「ホワイトローズ」の「山に長」など、60余りの暖簾紋を紹介。
一読すれば、日本の資本主義の発展の歴史まで読み取れるお薦め本。
(現代書館 4950円)