「ファミリー」という言葉だけでは納得できない契約書問題
一連の闇営業騒動の根本的な原因として指摘されているのが、芸人と紙の契約書を交わさない吉本興業の契約形態だ。
世の中の批判が殺到する中、メディアのインタビューに答えた大崎洋会長は、法的な正当性を示したうえで「口頭契約は、長い歴史の中で築かれた会社とタレントとの信頼関係の形」とし、記者会見での岡本昭彦社長も、紙の契約書は今後もつくらないという方針を表明した。
ところが騒動の最中、公正取引委員会の事務方トップが、「契約書がないことは競争政策の観点から問題がある」と発言すると、その翌日には一転して「希望するタレントとは書面で契約書を交わす」と表明したのは周知のとおり。新喜劇のような変わり身の早さはいかにも吉本らしいところだが、かたくなに形を変えようとしなかったのは、それだけこの形に誇りとこだわりがあったからだろう。
100年以上も芸能で食べてきた吉本興業は、おそらく日本で一番多く興行にかかわり、芸人たちと付き合ってきた経験を持つ企業である。時には平気で嘘をつくような海千山千の芸人たちを相手に、山ほどの失敗を繰り返しながらたどり着いたのがこの契約形態なのだ。吉本にしてみれば「よう知らんくせに人さまの商売にゴチャゴチャ言うな」と言いたいところだろう。