(29)幸運な出会いと一抹の寂しさ…乗車料金2万円以上の乗客は、高校の同級生だった
私はこの先輩ドライバーの教え通りつねに「手を上げたお客を乗せる」を基本にしていた。3年ほど前のこと。土曜日の夜、銀座でワンメーターのお客を降ろし、「回送」にして会社に戻ろうとしていた。すると「いいですか?」と初老の男性。私はドアを開けた。すると「埼玉の久喜市まで」とうれしいご用命だ。私の生まれ育った街に近い。2万円以上の料金が見込める。「東北道の久喜インターでよろしいでしょうか」と尋ねると「そう。それでお願いします」。高速道路、とくに東北道は混雑もなくスムーズに走れる。なにより料金も出る。上客中の上客である。私の思いを察したのか、同世代と思わしき男性客はほほ笑みながら話し出した。
「今日は卒業して初めて高校の同窓会に参加したんだ」とうれしそうにいう。「皆さん変わっていたでしょう」と私。すると機嫌よさそうに「じつは当時のある体験を話したんだ」と話しはじめた。乗車時間は1時間くらいになりそうだ。
「えっ、どんな体験ですか、お聞かせいただければ」
私は退屈しのぎに話を聞こうと合いの手を入れる。すると、そんな言葉を待っていたかのように話し出す。職業は開業医だという。