著者のコラム一覧
内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(29)幸運な出会いと一抹の寂しさ…乗車料金2万円以上の乗客は、高校の同級生だった

公開日: 更新日:

「僕は180センチの背丈なので目立っていた。そのせいか、あるとき他校の不良に絡まれてね。流れでタイマンを張る羽目になったんだ。そいつから友達が腕時計をゆすり取られていたのを知っていたし、それを取り戻してやろうと……。相手はイキがってベルトの代わりにチェーンを巻いている。でも瞬殺の一本勝ち。僕が学ランの胸元を掴み払い腰で転がし、すぐに膝を首に当てた。相手は僕が柔道部で黒帯なのを知らなかったんだね」

 さらにつづける。

「その件で退学になりそうだったけど、ある若い先生が猛反対してくれて停学ですんだんだ。その先生がいまは僕の病院の患者さん。僕が恩返しをする番だよ。人生はわからないね」

■自分の素性は明かせなかったけれど

 話の内容から、私は驚くべきことに気づいた。なんと、そのお客は私と同じ高校の同級生だったのだ。親しく口を利くことはなかったが、バックミラーに映るその顔に見覚えがあった。素性を明かそうかとも思ったが、なぜか私はやめた。

ドラマですね。いいお話をお聞かせいただきありがとうございました」

 お客が降りるとき、私は丁重に礼を言った。「ワンメーター客の先の長距離客」という幸運な出会いではあったが、帰路、「私には同窓会の案内状は来なかったな」と一抹の寂しさを感じていた。そして、一人の同窓生とも交流のなかった半世紀をちょっぴり悔やんだりもしていた。

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    都心のマンションで急増する“性感メンズエステ”驚愕の実態「まったく気付かず…」と住民唖然

  2. 2

    楽天・田中将大は今や球団の「厄介者」…大幅負け越し&パワハラ関与疑惑に年俸2億円超ダウン

  3. 3

    桜井ユキが6年前、松坂桃李と演じた激しい濡れ場…朝ドラ「虎に翼」“涼子様”で人気全国区に

  4. 4

    楽天・田中将大に囁かれていた「移籍説」…実力も素行も問題視されるレジェンドの哀れ

  5. 5

    中日「ポスト立浪」に浮上する“第3の男” 侍J井端弘和監督、井上一樹二軍監督の名前が挙がるが…

  1. 6

    悠仁さま“親がかり”の「東大推薦」に1万2500人超の反対署名…志望校変更に現実味も

  2. 7

    阪神「常勝軍団」構築は“オカダの考え”がカギ…試合前に捕手に“講義”、名指し公開説教は日常茶飯事

  3. 8

    夏ドラマ唯一の“ロス”は読売テレビ深夜ドラマのみ?「ブラックペアン2」ですら話題にならない深刻

  4. 9

    【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話

  5. 10

    桂菊丸&泉アキ夫妻 熱海で「自給自足」スローライフ満喫