夜景の見えるレストランにデジタルアート? 設備が超充実なオフィスが近ごろ増えている理由
会議室への通路があの有名なチームのアート作品
今、オフィスの内装設備や社食にこだわる企業が増えている。中にはアミューズメントパークや高級レストランと見紛うところも。費用もバカにならないだろうが、なぜ企業はここまでオフィス設備に注力するのか。その理由を探った。
「薄暗いジャングルのような空間を進むうちに、動物のアート映像が次々と現れた時は度肝を抜かれましたね。おのずとテンションが上がって、その後の取材も大いに盛り上がりました」と語るのは、六本木のDMM.com本社に取材で訪れたことのあるフリーライターI氏。
実は同社の会議室への通路は、チームラボのアート作品。同社はチームラボとともに豊洲で「チームラボプラネッツ TOKYO DMM」を運営している。オフィスを夢のある空間にした理由は何か。コーポレート室の中川佳織さんはこう言う。
「会議室エリアに限らず、本社のオフィスは多種多様な事業に携わる社員のクリエイティビティを刺激することをコンセプトにデザインしています。会議室への通路を、生態系が多様なジャングルにしたのは、同じく多様な事業を展開しているDMMらしさを表現するため。社外から来た方々にも、DMMとなら面白い取り組みができそう、DMMで働いてみたい、などと感じてもらうきっかけになればと思っています」
夜景がロマンチックなラグジュアリー系社員食堂
システム構築やソフトウェア開発などを手掛けるJBS(日本ビジネスシステムズ)の社員食堂「Lucy's CAFE & DINING」は、他の会社のそれとは一味違う。昼は栄養満点の定食やパスタなどの単品メニューを社員に格安で提供。夜はコース料理もあり、ソムリエもいてお酒も豊富。高級レストラン顔負けのラグジュアリーな内装はここが社員食堂であることを完全に忘れさせる。
圧巻は虎ノ門ヒルズ森タワー17階からの夜景だ。大きな窓から間近に見える東京タワーは何よりのご馳走。安くて、おいしくて、最高の眺望が楽しめる店は、なかなか見つからない。だから社員は外に飲みに行かずに、むしろお客を連れてくるという。
「もともとは社員が集まる“場”を作りたかったんです」
こう言うのは、同社代表取締役社長の牧田幸弘氏。社長でありながら、社員食堂の設計段階から陣頭指揮を執った。
「システムインテグレーターという職種柄、エンジニアはクライアント企業に出向き、客先に常駐するケースが多い。そうなると、ほとんど会社に来ない社員もおり、社員同士のコミュニケーションが希薄になります。それは会社としては由々しい問題だと感じました」
そこで牧田氏は、人が「来たい」と思う場所を作れば自然と社員が集まると考え、心の拠りどころになるような社員食堂を作り上げた。結果、社員だけでなく取引先など外部関係者も多く集まるようになり、売り上げも社員食堂から10年で5倍近くも増加。たかが社員食堂、されど社員食堂なのだ。
オフィスが充実すると生産性も上がる!
こうした、設備が充実しすぎているオフィスが増える理由は何か。環境としての空間が人間の心理・行動に及ぼす影響について調査研究する「空間デザイン心理学協会」代表理事で一級建築士の高原美由紀氏はこう分析する。
「テレワークの普及とともに、社員が会社へ求めることが変わってきました。また、会社側としても、オフィスにわざわざ来る意味を持たせる必要が出てきました。オフィスを非日常空間にすれば、社員にとっては働くことが楽しみになり、満足感や幸福感、誇りも生まれます。会社にとっては、オフィスに来てもらう理由になるし、社員の内面が豊かになれば生産性も上がります。その結果、離職率が減り、働きやすいとかおしゃれといったブランドイメージにつながる可能性も。関わる人々すべてに良い効果がもたらされているからこそ、こうしたオフィスが増えているのだと思います」
とはいえ、すべての会社が設備に注力できるわけではあるまい。高原氏によれば、「デスクの目の前に緑を置くだけでも空間の印象を変えることができる」そう。まずはそこからやってみてはいかが。
(取材・文=久保田まゆ香)