タイでの指導者人生は「思いもよらなかった」スタートに
2016年クラブW杯(CWC)決勝でレアル・マドリード相手に一歩も引かない戦いを披瀝した日本人指導者が、サッカー熱の凄まじいタイで素晴らしい結果を残した。
タイ1部のブリーラムを率いる石井正忠監督(55)が、2021/22年シーズンのリーグ戦、FA杯、リーグ杯の国内主要3タイトルを総ナメにしたのだ。
シーズンオフに日本に一時帰国して束の間の休日を過ごし、現在は8月12日に開幕する2022/2023年シーズンを前に現地タイでチーム強化に余念がない石井監督に鹿島アントラーズの監督時代、浪人時代、運命的なタイへの転身、コロナ禍での異国生活、そしてサッカー人としての将来の夢などを語ってもらった。
■シーズン中に強豪ブリーラム移籍
タイ1部の中堅サムットプラーカーンシティで采配を揮っていた石井監督の元にリーグ優勝7回を誇り、ACL(アジア・チャンピオンズリーグ)でも上位に食い込んだ強豪ブリーラムからオファーが届き、シーズン真っ只中の2021年12月に新天地に赴いた。
「自分の指導者人生にとって大きなオファーでした。サムットプラカーンシティの女性オーナーから『オファーが届いている』と知らされ、ぜひチャレンジしたいという思いを正直に伝えました。リーグ戦首位のチームを引き継いだわけですから、何よりもリーグ優勝でシーズンを終えることが、私の最大のミッションと心得ました。最終節の1試合を残してリーグ優勝を果たし、続いてFA杯を制しました。そしてリーグ杯の頂点に立ったことで3冠を達成することができました。どの国であっても3冠というのは難しいものだと思います。指導者として大きな自信を得ることができました」
■選手と監督の両方でJ1優勝
鹿島の創設メンバーだった石井監督は1998年に現役を引退。指導者の道に入り、2015年シーズン中の7月にトニーニョ・セレーゾ監督の後任として監督に就任した。
常勝軍団・鹿島にあって初代監督の宮本征勝氏(故人)以来、21年ぶりの日本人監督だ。同年のリーグ杯を制覇。2016年にはJリーグ年間優勝を達成。Jリーグ史上初の「選手と監督の両方で年間優勝経験者」となった。
同年12月に日本で開催されたCWCの決勝でレアル・マドリードに惜敗したが、アジア勢初のCWCファイナリストとなった。しかし、翌シーズンは成績不振などを理由に2017年5月、鹿島の監督を退くことになり、シーズン終盤に就任した大宮アルディージャの監督を2018年も務めたが、シーズン後に退任となった。
約1年のブランクの後、次なるステージは「思いもよらなかった」(石井監督)タイで指導者人生をリスタートさせた。