笹生優花 パリ五輪金メダルへの“最強ギア”は師匠ジャンボ尾崎の「お下がりドライバー」
「この魔法のようなドライバーだったら私の夢がかなえられる」
笹生は19年のプロテスト合格後、尾崎が運営する「ジャンボ尾崎ゴルフアカデミー」で指導を受けていた際、工房の傍らに置かれていたこのドライバーが目に留まった。ショットのバラツキに悩んでいた笹生はこの威風堂々としたクラブにひかれ、すぐさまレンジで試すと体中に電撃が走ったそうだ。
「この魔法のようなドライバーだったら私の夢がかなえられる」
その言葉に尾崎は、自分のドライバーを笹生に譲った。以後笹生は、クラブメーカーと契約した後も、このドライバーのスペックを踏襲している。
笹生は「魔法のドライバー」を手にしたちょうどその頃、尾崎からある課題を与えられている。サンドウエッジ(SW)で低い球を打つ練習である。それまで笹生はSWでもクラブを振り回し高い球を打っていた。
「そんな一辺倒な打ち方じゃあ、いろんな状況に対応できる球筋を身につけることはできない。もっと体と頭を使え!」
尾崎は笹生にこう言ったそうだ。
低い球を打つには、強い足腰を土台にした安定した重心と、体の捻転、回転、腕の振り方など全身を使ったバランスの取れたスイングが必要。野球の投手が低めのスピードあるストレートを基本に、さまざまな球種を組み立てる理論と似ている。
子どもの頃から両足首に重りをつけて走り込み、尾崎アカデミーではタイヤ引きなどのトレーニングで下半身を強化していた笹生にとっては、まさに天が与えたともいえるドライバーとの巡り合いと尾崎の貴重な助言だった。
尾崎の取材で2人の師弟関係は、周囲が思う以上に強かったことがわかった。持つべきものは「良き指導者」である。パリ五輪の笹生には強い味方がついている。