春、かそけきものの声を聞く
「写訳 春と修羅」宮沢賢治 齋藤陽道著
暖かい日差しに身を委ねボンヤリ、心の銀幕を行き来する由なし事を眺める。本書はそんな「かそけき季節」におすすめの一冊。
「写訳 春と修羅」。宮沢賢治・作「春と修羅」をはじめ4編の詩を収める。前書きに「写訳は(写真家)齋藤陽道による造語で、宮沢賢治の詩の世界を写真で翻案する」とある。
思えば、賢治は自らの詩を「心象スケッチ」と呼んだ。だが、その詩句は、読み進むほどに概念的/抽象的になっていく。スケッチのはずなのに、詩人が自身に正直であろうとするほど、読者には難解に響くジレンマ。本書の写真がときに「ピンボケ」、輪郭を失い背景に溶け入ってしまうのもそうした「原著」の内情によるのだろう。
さて、装丁に携わるものなら誰でも、詩集の仕事と聞くだけでワクワクしてくるだろう。詩人と編集者と装丁者の間で「表現の自由」が共有されるためだろうか。なんらかの共同謀議が成立しているのかもしれない。
ともあれ、本書を手に取った印象は「軽く小さく華奢」。本文で使われている紙は4種類。フワッとした軽い銘柄が選ばれている。いみじくも賢治の詩を「翻案」したかのようだ。そして一番の特徴は「開きやすい」こと。一見普通のソフトカバー(並製)だが、「糸かがり」された背がむき出しだ。等間隔に並んだブルーの糸の列が「和綴じ本」の風情を醸し出す。特殊なのりで柔軟に「背固め」してあるので、バラバラになることはない。